離脱
自分のからだに残っているエネルギーがもう残り少ないことを感じつつ、一歩一歩足を前に運んだ。
救出地点までの道のりは長い。
隊の行進も間隔が開いてきた。重量物を担いでいる者、疲労困ぱいに陥っている者がどうしても遅れるのである。
間隔が開きすぎれば先頭は停止し、差を縮めては前へと進む。
各人の武器装具は想定によって決められている。
戦闘隊長の組、前方警戒班の組、無線手以外の人員が資材や機関銃、無反動砲などの重量物を分担し、交代で持つ。
これらの役割は各想定(1~9想定)ごとに交代する。
一度疲労困ぱいになると、荷物を減らし休憩をとらなければ復活するのは難しい。
だんだん重量物を持つ者も限られてくる。
フラフラになっている者の背中を押して歩く者、小銃を2丁持つ者が出てくる。
皆限界を通り越していた。
「ガシャ」
誰かが倒れた音だ。
とうとう倒れる学生も出てくる。
停止命令がかかり、救護の助教が駆けつける。
何とか息を吹き返し、彼は復帰するがその後も倒れ、とうとう病院へ運ばれた。しかし数時間後に再度復帰し、最後まで彼は歩ききった。
だが1名だけどうしても訓練について来られなくなっている学生がいた。
ここまで仲間どうしカバーし合い、励まし合ってきたが彼を引っ張っていくことができなかった。彼は原隊復帰(リタイア)となってしまった。
これはみんなの責任であり、俺達全員の状態を象徴する出来事だ。
人間は苦しいと自分のことで精一杯になってしまう。
だが全員がそれでは次々と脱落する人間を待つだけとなってしまう。
自分が苦しい時はみんなも苦しい。だからそういう時こそ励まし合わな
ければいけなかったはずだ。
俺達はもう一度、団結力の大事さを肝に銘じた。
1名原隊復帰で俺達レンジャー戦闘隊は16名となった。
その後も倒れる者、病院へ運ばれる者が出たが、この16名で最後まで乗り切ることができた。
みんなで支え合わなければレンジャー訓練は乗り切れるものではない。
もちろん最後は自分との闘いだ。だがそれは自分に向ける言葉であって、手放しで人に向けるものではない。
倒れそうになる心を甦らせるのはいつでも誰かの声だ。誰かの存在だ。
誰かがついて来られなくなったのなら、それはみんなの責任なんだ。
レンジャー訓練も最終段階に来ているこの状況では、皆分かっている。
仲間がいてくれたから自分はできたんだということを。
うつろになりながらも思い出した懐かしく思う家族の存在。心の支えの人。
それがどれほど自分を支える大きな存在だったか。
自分の存在も、自分で思うほど決して小さな存在ではない。
たとえそこにいなくてもいい。
今一緒にいるのならどれだけできることがあるだろう。
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