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元レンジャー隊員のブログ

帰来

目の前に輸送用中型トラックがいる。
徒歩での離脱を終える合流地点に到着だ。
想定ではこのトラックをヘリコプターと見なすため、身をかがめながら駆け足で接近し、全員すばやく乗り込んだ。
ベースキャンプへ向け、トラックが動き出す。
助手席に座った助教が仕切りの窓から「水を飲むな」とか「物を落とすな」とか言っていた。
返事はできるが頭の中は真っ白だった。
ただ、さっきまで自分達がいた場所、歩いていた地面が遠ざかっていく
のを肌で感じていた。
荷台に座ってぼうっと一点を見つめていたと思う。
靴の中は靴擦れでヒリヒリ。腕は重量物のおかげで痺れている。
皆弱りきって体重は落ち、迷彩服からは異臭が立つ。
ただ眼光だけが皆異様に鋭く光っている。
皆の姿かたち、顔立ちと体つきの変わり様は親でも一瞬自分の息子かどうか分からないだろう。
ベースキャンプでトラックが停止した。
一つの想定訓練が終わろうとしていた。
全員整列。報告を終え任務完了。
想定訓練の「状況終わり」が告げられる。
教官のほうから非常にけじめのあるセリフがあるのだが忘れてしまった。
とにかく、これでいったんレンジャー戦闘隊の編成は解除され、その後武器の手入れや各装具の整備の時間となる。
服装がジャージ上下に運動靴になった。からだが軽い。
足の靴擦れがひどく、皆びっこをひいていた。
1リットルのジュースを一気飲みした。口をつけたまま止まらなかった。
一気に空になるペットボトルを見て自分でも苦笑。
甘いものばかりたくさん食べた。
食事も何回もおかわりした。どれだけ食べても満腹感が来ない。
時間が決められているのでしょうがなく食べるのをやめるという状態。
皆殺気立って飲み食いしていた。
食事の時間以外でも許される限り常に何かを食べていたと思う。
干ししいたけを水に浸けたみたいにからだがむくんた。
山に来て最初のころ、想定と想定のあいだに日にちがなく、次の日の早朝に非常呼集がかかったが、訓練も終盤に入ってくると、1回の想定訓練の日数も増え、その分整備仕事がメインのゆっくりした日もあるのだ。
束の間の平和な日。食事もとれる。ジュースも飲める。近くの旅館でお風呂に入ってついでに買出しもできる。そして夜には寝ることができた。
朝目覚めて、今日は非常呼集がかからないと分かった日は1日生き延びた気分だ。
ある日の夜、地元の民間の人達を交えたバーベキュー大会があった。
レンジャー訓練隊とその訓練地域の町民の方達との親睦会だ。
俺達学生は少量しかお酒は飲めなかったと思うが、力をつけておこうと肉は一生懸命食べた。その食べっぷりは残飯処理班と形容してもいい。
教官、助教達はとにかく飲む。酒が入ると普段よりも輪をかけて恐ろしい。
まあこういう席では大丈夫なんだが、恐ろしさを知っている俺達は非常に緊張したものだ。
今までの訓練で誰がバテたとか、誰が役者(辛そうに振舞う者)だったとか、官品を落として捜索が大変だったとかいろいろなエピソードが飛び交って話が盛り上がっていた。
関係ない人達から見ればとても楽しげな光景だろう。だが俺達はまるで飛んでくる流れ弾に仰天しているカモの群のようだった。
「お前ら!嫌いな助教の名前を言え!」
「おうおう!誰だ言ってみろ!」
「いません!」
「怒らないから言ってみろ!」
あとが怖いから言えるわけがない。たまにこの質問をぶつけられるが、正直に言うとその助教はますます力を発揮するから嫌だ。
「言ったら許してやる」
逃げ道がない・・・
「おうお前ら!何か歌え!」「芸は身を助けるぞ!」
「レンジャー鈴木(仮名)!同期の桜、歌います!!」
お馴染みの歌がはじまった。
「貴っ様とお~れ~と~は~同期のさ~く~ら~!!」
みんなで大合唱だ。
この歌は自衛隊にいる時このような宴会の席でよく歌った。
同期の友情の歌だ。
「同じ教育隊の~庭に咲く~咲いた花なら~散るのは覚悟~見事散ります~国のため」
そしてバーベキュー大会がいろいろ盛り上がったあと、教官、助教も一緒に、最後にレンジャー訓練隊の歌を歌った。
自分達はレンジャーなんだという思いを噛み締めて。


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