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元レンジャー隊員のブログ

フィードバックの技術

フィードバックの技術とは、相手の気づきを促すために有効な情報を、相手に効果的に伝える技術のことである。

コーチングでのフィードバックは、登山者と同行するガイドの関係のように、相手が目的・目標からルートを外れたときのネガティブ・フィードバックと、また、ルートを順調に進んでいるときのポジティブ・フィードバックの2種類に分けることができる。

フィードバックとは「評価」や「依頼」ではない。「事実」と「影響」の指摘である。

事実とは、『何についてフィードバックしているのか』
影響とは、『そのことが、周囲の人間や本人にどう影響しているのか』

ということである。

(1)ネガティブ・フィードバック

これは、相手が目的・目標からルートを外れたことを指摘するときに使う。

相手の言動に対してネガティブ・フィードバックをする場合、「あなたは〇〇な人だ」とか「そんなことをするな(言うな)」あるいは「ああしろこうしろ」と返すのは、相手への評価や依頼の類であり、それはフィードバックとはいわない。本人の目的・目標に対し、今何が起きているのか、何をしているのかを明確に、また、そのことが、周囲の人間や本人にどう影響しているのかという「事実と影響」を伝えるのがフィードバックである。

たとえば、相手が遅刻してきた場合で見てみると、

「時間にルーズだ」とか「5分前に来るべきだ」などの「評価」や「依頼」を伝えるのではなく、「何分間・何時間の超過時間」(事実)によって、そのことがどういう「影響」を及ぼしているかということを伝えるわけである。

「君が1時間遅れたことによって(事実)、グループ全員の出発が遅れたよ。今後、遅刻者は待たないとの意見が出ている(影響)」

「遅れてきて、ごめんの一言もなく自分の都合ばかり(事実)・・・聞いていて気分のいいものじゃないよ(影響)」

(2)ポジティブ・フィードバック

これは、相手が目的・目標のルートにうまく乗っているとき、途中の目標をクリアしたときのフィードバックである。ポジティブ・フィードバックは単に相手をほめることとは違う。やはり、

事実のフィードバック『何についてフィードバックしているのか』
影響のフィードバック『そのことが、周囲の人間や本人にどう影響しているのか』

であって、相手をこちらの判断基準で「評価」したり、こちらの望むことを「依頼」したりはしない。たとえば、

「あなたはすばらしいですよ」「君はよくやっているよ」「あなたならできる」とか、「上手ですよ」「気がきくね」「きれいだね」では、何についてフィードバックしているのかが具体的になっていないわけである。また、相手を評価する形をとってしまうと、相手が違えば「私を評価するあなたは何様?」との心理的抵抗が生じる場合もあり、それでは逆効果である。

さらに、「こうするともっといいよ」「それを忘れないで」「その調子を維持して」などは相手への依頼であって、ある意味では有効かも知れないが、本人の気づき(パラダイムを広げる)を得るためには効果的ではない。

たとえば、

「君は手帳を持ち歩いてよくメモをしているからね(事実)。君とは予定の調整がすぐにできるからホントにありがたいよ(影響)」

「よくそれに気がついたね、このままでは危なかったよ(事実)。ありがとう、多くの人が助かるよ(影響)」

「あなたが今日、事実を打ち明けられたことを見て(事実)、私は感動しました。感謝しています(影響)」

「君の運転はよく顔を向けて確認してるね(事実)。安心感があるよ(影響)」

というように、何について、それがどう影響しているのかを伝えるのがフィードバックである。

アスキングの技術

アスキング(質問)の技術には、主に次の3つがある。

1.オープンな質問、クローズドな質問
2.チャンキングする質問
3.主観と客観を分ける質問

1.オープンな質問、クローズドな質問

(1)オープンな質問

これは相手が自由に答えられる質問である。

  • 自由に話してほしいとき。
  • たくさんの情報がほしいとき。
  • 相手のことをよく知りたいとき。
  • 話を広げたいとき。
  • 会話の主導権を相手に持ってほしいとき。

などに使うと有効な質問である。たとえば、

  • 「どんな気分ですか?」
  • 「最近気になっていることは?」
  • 「今日すべきことは?」
  • 「起こり得る最悪の事態は?」
  • 「不要なものって何?」
  • 「楽しかったことは何?」
  • 「何が苦痛ですか?」
  • 「どうしたい?」
  • 「何を心配しているのですか?」
  • 「払う代償は?」
  • 「プラスの面は?」
  • 「マイナスの面は?」
  • 「何を待ってるんですか?」

などのような質問がこれに当たる。

(2)クローズドな質問

「はい・いいえ」など限定された答えを引き出す質問である。

  • 答えを絞り込むとき。
  • 決断を迫るとき。
  • 時間がないとき。
  • 相手の口が重たいとき。
  • こちらが会話の主導権を握りたいとき。

などに使うと有効である。

  • 「目的は達成できましたか?」
  • 「1日のスケジュールは立てましたか?」
  • 「準備できましたか?」
  • 「実行可能ですか?」
  • 「今必要なのは量ですか?質ですか?」
  • 「重視するのはAですか?Bですか?」
  • 「体験したことがありますか?」
  • 「私があなたとの約束を破ったことがありますか?」
  • 「確認しましたか?」
  • 「終了してもいいですか?」

などのような質問がこれに当たる。

2.チャンキングする質問

チャンクとは塊(かたまり)という意味であり、チャンキングは3つの方向性で行うことができる。

(1)チャンク・ダウンの質問
(2)チャンク・アップの質問
(3)チャンク・ラテラリーの質問

チャンク・ダウンとは、より小さい塊に意識を向けること、チャンク・アップとは、より大きな塊に意識を向けること、チャンク・ラテラリーとは、同じサイズの別の塊に意識を向けることで、そのための質問をすることである。

たとえば、たくさんの情報がほしいとき、あるいは抽象的・漠然としすぎてあつかえない情報にはチャンク・ダウンの質問を。逆に、細部の情報ではなく抽象的な見方をしたり、大局的に考える必要がある場合にはチャンク・アップの質問を。また、別の種類に置き換えたり、別の例を挙げたい場合はチャンク・ラテラリーの質問をする。

「長い棒を探してるんですが」
「どのくらいの長さ、太さでしょうか?」(チャンク・ダウン)
「何に使うのですか?」(チャンク・アップ)
「たとえばそれは何に似てますか?」(チャンク・ラテラリー)

「彼はすぐに怒るんです」
「どういう風に?誰に対して?どうやって彼が怒っていると分かるの?」(チャンク・ダウン)
「ということは、彼は感受性の強い人なんですか?」(チャンク・アップ)
「彼はよく泣いたり笑ったりしますか?」(チャンク・ラテラリー)

3.主観と客観を分ける質問

相手の主観的な表現や態度に対し、客観的な質問をすることによって、主観と客観とを分ける知が生じる。

「携帯電話ぐらいみんな持ってますよ」
「一人残らず?いつも肌身離さずに?」

「何もできないんです」
「すべてのことが?何一つ?」

「ひどいですよね」
「誰にとって?」

「彼がいると私はイライラするのよ」
「彼はどうやって、あなたをイライラさせることができるのですか?」

「彼は秘密を持っている」
「彼が秘密を持っていると、どうやって分かるのですか?」

リスニングの技術

コーチングにおけるリスニングの技術とは、話し手が話をしやすいように聞き手がリードすることであり、そのためには次の3つの技法が効果的である。

1.ペーシング(波長を合わせる)
2.バック・トラック(繰り返す)
3.キャリブレーション(観察する)
4.ブレイク・ステート(転換)

1.ペーシング(波長を合わせる)

これは、相手と波長を合わせる技法で、相手を知り、ラポール(親密な関係)を築くのに有効である。

コミュニケーションがどのような要素で行なわれるかを、UCLAの心理学者アルバート・メラビアン博士が測定した結果、次のことがわかった。

  • 見た目、しぐさ、表情、態度などが55%
  • 声の質、大きさ、速さなどが38%
  • 言葉、話す内容が7%
つまり、言葉以外の要素で93%のコミュニケーションが行なわれているというわけである。これは「メラビアンの法則」という。他にも、「第一印象は6~30秒で決まり、人間の情報収集は視覚によるものが83%を占める」という研究結果もある。

ラポールは言語、非言語ともに、相手と共通するものを見つけることによって創り出すことができる。

具体的には、視線・表情、姿勢・しぐさ、話し方(スピード・声のトーン・間)、話す内容などを可能なかぎり合わせることで、相手の情報が入りやすくなる。相手の状態を鏡に映すように真似ることから、ミラーリングともいう。ただし不自然にならないように。

(1)視線と表情を合わせる
  • 目は心の窓という。本人が意識していない心情でも目に表れている。(瞳孔の大きさなど)
  • 視線を合わせるのは「話を聴いていますよ」というメッセージでもある。相手が見つめられるのが苦手なタイプなら適度に。
  • 目線の高さを合わせる。お互いに相手に対して見上げたり見下す位置関係にならないように。
  • 相手が嬉しい顔をしているときは、こちらも嬉しい顔を。悲しい顔のときは、こちらも悲しい顔で。
(2)姿勢としぐさを合わせる
  • 相手が座っているならこちらも座り、立っているならこちらも立つ。
  • 足を組んでいるならこちらも組んでみる。伸ばしているならこちらも伸ばしてみる。
  • 動きの大きい人なら大きく、小さい人なら小さくする。
  • 動きの早い人なら早く、ゆっくりな人ならゆっくりとする。
  • 相手が飲み物を飲んだらこちらも飲むなど、動作を合わせる。
  • 耳を触るとか、手をたたくとか、腕を組むとかの相手のしぐさを真似てみる。
  • 呼吸を合わせる。
  • 一緒に笑う。
  • 状況によって対面かとなりに座るかを変える。(会議では対面側に座らないなど)
  • まばたきを合わせる。スピード、頻度。
  • 身体の筋肉の力の入れ具合を合わせる。
  • 物の置く位置を鏡に映したように合わせる。
  • 服装を合わせる。
  • アクセサリーを合わせる。
(3)話し方(スピード・声のトーン・間)を合わせる
  • 早口な人には早く、ゆっくりな人にはゆっくりと話す。
  • 声のトーンの高い人にはこちらも高めで、低い人にはこちらも低めで。
  • 間の短い人には短く、長い人には長めにとる。
  • テンションの高さを合わせる。
(4)話す内容を合わせる
  • 当然のことながら、相手の話を聴くわけであるから、相手の話題を中心にする。
  • 共通の話題、共通の体験を話す。
  • 言葉使いを合わせる。「話が見えてきましたか?」と聞かれた場合、正:「見えてきました」誤:「わかりました」「理解できました」あるいは、「赤いレバーをカチッと引くんですね?」と聞かれた場合、正:「カチッと引いてください」誤:「しるしのところまで引いてください」「ギュッと引いてください」など。
  • 相手のよく使う口ぐせを使って表現してみる。「私的には~」「ぶっちゃけ~」とか、あるいは方言の「めっちゃ~」「ごっつう~」「どえらい~」などをさりげなく差し挟む。

相手の状態にペーシングして無意識のラポールが形成されると、その人を新たな態度に導くことが可能になる。徐々に自分の状態を変化させて、相手がそれについてくる機会を与えるようにする。

2.バック・トラック(繰り返す)

相手の言ったことを繰り返すことによって、次の効果がある。

(1)内容を要約し、確認する
(2)共感を示すことによってラポールがとれる
(3)こちらの考える時間をつくる
(4)次のステップに進む

どのような内容だろうと、まずは共感的理解を示すこと。相手の言動の一つひとつに反応するのは人間的な幅、器の狭さである。

誤解のないように内容をきちんと確認したいときはもちろんのこと、考える間がほしいとき、流れを変えたいときにはバック・トラッキングが有効である。

「ということは、昨日は彼女に会えなかったんだね」(内容要約・確認)
「それで君としては、時間をかけて行ったのに会えなくて、少しがっかりしているわけだね」(共感)

3.キャリブレーション(観察する)

キャリブレーションとは、五感を研ぎ澄まして相手を感じること。視覚では顔色や汗のかき具合、筋肉の細かな動きや変化など。聴覚では声や呼吸の調子、足音やドアノブを回す音など。触運動覚では握手したときの手の温度など。相手がどういう状態か、何が起きているのかを観察する。

4.ブレイク・ステート(転換)

問題となる行動を導く心理状態のことを「スタック」といい、自分で望む方向に向かう心理状態のことを「リソースフル」という。

ブレイク・ステートは相手にリソースフルな状態を保たせるため、あるいは、スタックした状態から開放させるために行なう。たとえば、相手が行き詰った状態や、落ち込んだり、混乱したりしている場合の気分転換である。

具体的には、次のようなことを行なうのがブレイク・ステートである。

  • ユーモアをいう。
  • 相手との位置関係を変える。
  • 相手のいる位置を移動してもらう。
  • 場所を変える。
  • 飲み物や食事を一緒にとる。
  • 首や肩を回す。背伸びをする。
  • 深呼吸。
  • 立つ。座る。歩く。横になる。
  • 相手の好きな絵や写真を見せる。
  • 音楽をかける。音楽を変える。音楽を切る。
  • 相手に話させる。相手の興味のある話題を話す。
  • ペーシングあるいはこちらの動作を真似してもらう。
  • 雑談。
  • その他、社会的に了承され、相手のスタック状態から転換させるのに適切なら、どのような方法でもかまわない。

コミュニケーションの極意

卓越したコミュニケーションを身につけるためには、次の3つのことを行なうことである。これはコミュニケーションにおける場合だけでなく、ものごとを成し遂げるための極意である。

1.意図
2.鋭敏さ
3.柔軟性

1.具体的・明確な意図を持つ

意図とは「目的と目標」のことをいう。つまり、常に具体的・明確な目的と目標を持っていること。そして、目的や目標に適っていることをしていること。

コミュニケーションにおいても、何のためにしているのか? 何が得たいのか? どんな成果を望んでいるのか? ということを自分の中ではっきりさせること。

たとえば、ある上司が落ち込んでいる部下と話をするときに、「まずは彼の自信を回復することが先決だ」と意図を明確にしたのなら、話の途中で自分の仕事上の諸問題を思い出しても、彼とあらゆる面で価値観があわなくても、言いたいことがうまく言えなくても、最初に見い出した意図が羅針盤となって方向を指し示し、目的を果たすのである。

2.いま、ここにおいて鋭敏であること

鋭敏さとは「気づく」ということである。では何に気づくことが重要なのか。それは、

(1)意図に対して、いまどういう状態か?
(2)効果があるのか? Effective
(3)役に立つのか? Useful

という質問から導き出されるものである。これらの質問を自分に問いかけることによって鋭敏さが養われていく。

たとえば、先の上司の例でいうと「いま自分のしていることは、部下の自信を回復させるのに役立っているだろうか」「いま話している内容は自信を引き出すことに効果的だろうか。話し方は? 部下の状態は?」というように観察することである。もし自分が少し感情的になっているなら、「この感情は、いま役に立つのか?」と観察していくわけである。

3.柔軟であること

柔軟性とは、次の3つを自分でコントロールできる能力のことをいう。

(1)思考(ものの見方、考え方など)
(2)感情(気持ちや感じ方など)
(3)行動(言動、態度、姿勢、行動など)

コントロールとは、

(1)スタート(始める)
(2)ストップ(やめる)
(3)チェンジ(変える)

の3つのことをいう。

たとえば、先の例でいうと「結論を先に言うことは彼には効果的ではないようだ。これは私のクセだった。ならば物語風に話してみよう」とか、「感情的になって思わず声が大きくなった。私の強調したいことはそのことではないのに。この感情はいまは役に立たないのだ。よし、深くゆっくりと呼吸しよう」あるいは、「私の過去の失敗を話したら彼が生きいきとしてきた。私の痛い失敗談がいま役立っているわけだ。部下にこのように話をするのは初めてで変な感じだが、それが有効らしい。話を続けよう」というように対応することをいう。

このように、意図、鋭敏さ、柔軟性の3つのサイクルを回していくことが、成果を出すための極意である。

コーチングとは?

コーチングとは、ある人間の可能性を信じ、自己実現をサポートするためのコミュニケーション技術である。

サポートをしていくためのコミュニケーション技術というのは、コーチが何か自分の思ったことをプレイヤーに教えるのではなくて、プレイヤー自身が自己の内部において気づきを得て、自ら答えを出し、選択肢を広げ、成果を手に入れていくということを支援する技術である。

コーチングのプロセスとは?

コーチングの手順は、次の4つの段階(GROWモデルという)に分けることができる。

(1)目標設定 Goal

本人がどうしたいか。目指すところを見い出させ、目標設定を助ける。

(2)現状認識 Reality

現状を認識させる。自分がいるところ、状態を気づかせる。良いか悪いかではない。

(3)選択肢・資源・方法 Options

どのような選択肢や方法があるかを見い出させる。すでに本人が持っている目標達成のために役立つもの(資源)を引き出す。

(4)意志確認 Will

できるできないではなくて、やるかやらないかの確認。コミットメント、約束。

コーチングのコミュニケーションとは?

コーチングは、次の3つのコミュニケーション技術によって進行する。

(1)リスニングの技術 Listening

聴き方のスキル。

(2)アスキングの技術 Asking

質問の仕方のスキル。

(3)フィードバックの技術

伝え方のスキル。

コーチングのプロセスは、相手とのコミュニケーションによって進められるため、コーチングにはベースとなるコミュニケーション技術が必要である。コミュニケーションの基本技術なしにはコーチングは成り立たない。

コーチングを支えるパラダイム

コーチングの技術を理解するためには、人間の「パラダイム」を理解する必要がある。

パラダイムとは、「その人の本質的な部分を覆い隠すように、ものの見方、感じ方、考え方、行動を無意識に規定している概念の枠組み」のことをいう。この枠組みが大きくなればなるほど選択肢が増え、つまり可能なものの領域が増大していくという理論である。

パラダイムはその人の行動を規定してしまうものとはいえ、必要なものである。パラダイムはものごとを「当たり前」にできるようにする。ただ、その枠組みが小さければ選択肢も限られて、枠組みが大きければ選択肢も増えるというわけである。

パラダイムの内側はその人にとって安全で、正しく、理解ができる領域であり、外側は危険で、間違っていて、理解できない領域であり、その境界を超えることは挑戦となる。

現状を認識するということは、自分のパラダイムに気づくこと。目標を設定するということは、このパラダイムの外に目を向けることである。そして、目標を達成する過程ではパラダイムの外に出なければならないし、枠組み自体を広げる努力をしなければならない。

人が何か新しい成果を望むなら、パラダイムという安全領域、すなわち過去の思考・感情・行動パターンから飛び出す必要がある。しかし、通常、人間は何か大きな失敗や問題でもなければ、自分を見つめたり考え方や行動を変えたりするようなことはない。

それまで自分を守ってきたはずのパラダイムが反面、束縛もしていたのだと知る瞬間、すなわち「もううんざり」「もうこりごり」するほどの状況に直面して、ようやく何とかしようと動き出す。そこまでいかないうちは、頭であれこれ考えるだけで、なかなか行動には踏み切らないものである。

しかし、自分の手に入れたいもの、なりたい姿が未知の領域であるパラダイムの外にあると認めるのなら、これまでの自分をありのままに直視し、思考・感情・行動を修正しなければならない。

このパラダイムを自ら突破し拡大する(ブレークスルーという)ためのサポートの技術がコーチングであり、その技法を支えているのが次の4つである。

(1)人は誰でもたくさんの可能性を持っている
(2)必要とする答えはその人の中にある
(3)気づきが重要
(4)気づきを得るにはパートナーが有効

コーチングは、これらの立場に立ってプレーヤーをサポートし、ブレークスルーを誘発し、パラダイムシフトによる目標達成のための技法である。

祈り

神に対する祈念によっても、最高の境涯の結果を得ることが間近にある。ここ(神)においては、精神統一を生ずる原因は、極度にすぐれている。

なぜなら、彼(神)をあらわすものは、想起する者にとってただちに、救済者、目撃者、主宰者、終着点、浄化具、保護者、維持者、避難所、安息所、不滅の原因となるから。

心と言葉と身体による祈念の中に思念し行為する者は、最高の境涯の体得があり、精神統一が成就する。

精神統一

正しい精神統一は、戒律を(心に銘記したことを)守ることから生じ、戒律を守ることは、眼・耳・鼻・舌・皮膚・心という感覚器官を外界から守り制御すること、すなわち眼で見る色形・耳で聞く音・鼻で嗅ぐ香り・舌で味わう味・身体で感じる感触・心で覚える概念といった対象に我を(注意を)奪われないことから生じ、感覚器官を守り制御することは、思慮深く自覚的であることから生じ、思慮深く自覚的であることは、精神統一の障害(すなわち渇望・悪意・倦怠・心の浮き沈み・疑い)を克服し、満足することから生じる。

ではどのようにして心に銘記した戒律を守るのか。たとえば自己のライバルに対し、嘘を語ろうという妄想に害されるときは、その妄想に対抗するものを次のように繰り返し思念すべきである。『私は真実を語ることによって憂いから離れている。ひとたび捨てた妄想を私が再びいだくならば、自らの反吐をなめる犬のようなものである』と。

自己制御を克服した者は、自身の内部において完璧な幸福が体験される。こうして戒律を遵守する者は、戒律による自己制御に関するかぎり、少しの脅威も覚えない。

ではどのようにして感覚器官を外界から防御するのか。たとえば、眼で物を見るとき、その全体のすがたにも捉われず、その細部にも捉われないように心がけて物を見ることである。この眼という感覚器官が制御されていないことが原因となって、その者に心の散乱する状態が入り込むのであるから、それを制御するよう心がけるべきである。その他耳で音や声を聞くとき、鼻でにおいを嗅ぐとき、舌で味を味わうとき、身体で感触するとき、心で事柄を判断するときにも、同じように、その対象の全体のすがたにも、細部にも捉われずに、感覚器官の制御が達成されたとき、自己の内部において汚れなき幸福が体験される。こうして感覚器官が外界から防御される。

ではどのようにして思慮深く自覚的であることを身につけるのか。思慮深く自覚的であるとは、配慮が行き届いていて、自分が何をしているのかが正確に解っている状態のことである。つまり、思考するときも自身と関連づける範疇を大きく保持し、行動するときもすべてにおいて自覚的に行動するよう心がけることである。前を見るとき、うしろを見るとき、腕を伸ばすとき、縮めるとき、荷物を持つとき、置くとき、食べ、飲み、噛み、飲み込むとき、歩き、立ち止まり、座り、眠るとき、目覚めたとき、語るとき、黙っているとき、すべてにおいて、なにげなく(自己不在であるかのように)行動するのではなくて、自覚的に行動することである。こうして思慮深く自覚的であることが身につく。

ではどのようにして精神統一の障害となる渇望・悪意・倦怠・心の浮き沈み・疑いを克服し、常に満足する者となるのか。満足とは、この身や世間に対する執着から離れた、欲望の征服者としての意識である。

たとえば、莫大な借金で苦しんでいる人が、ついにすべてを返済し終わったとする。すると彼はこう考える。『私は前に借金で苦しんだ。だが今は返済も終わり苦しみから解放された』と。こう考えることによって彼は歓喜を得、心が安らかとなる。

またたとえば、ある人が病気になって苦しみ、その病が重くなると食事もまずくなり、身体に力が入らなくなる。その彼が病気から回復すると、食物が味わえるようになり、身体にも力が入るようになってきた。彼はこう考える。『私は前に病気をして苦しみ、病が重くなって食事はまずく、身体に力が入らなくなった。その私が今では病気から回復し、食事はうまくなり、身体に力が入っている』と。こう考えることによって彼は歓喜を得、心が安らかとなる。

またたとえば、ある人が牢獄につながれたが、後日無事に解放され、また以前と同じ生活に戻れたとする。彼はこう考える。『私は牢獄に閉じ込められ、いつそこから出れるのか分からない不安な日々を送った。だが今では安全無事に釈放され、私の元の生活に戻ることができた』と。こう考えることによって彼は歓喜を得、心が安らかとなる。

あるいはまた、ある奴隷がいて、自由意志をまったく認められず、他人に拘束され、行きたいところへも行けなかった。その彼が、後日、奴隷の身分から解放され、自己を回復し、他人に拘束されず、自由の身分となって行きたいところへも行けるようになったとする。彼はこう考える。『私は以前、自由意志をまったく認められず、他人に拘束され、行きたいところへも行けなかった。それが今では自由の身となり、自己を回復し、他人に拘束されず、行きたいところへ行くことができる』と。こう考えることによって彼は歓喜を得、心が安らかとなる。

あるいはまた、平穏に暮らしている者が、荒野の危険な旅を、食料もなく、恐怖におののきながら歩いている。やがて、荒野を抜けて安全な村のはずれまで無事にたどりついたとする。彼はこう考える。『私は荒野の危険な中を、食料もなく、恐怖におののきながら歩いていたが、その私が今では、荒野を通り抜け、恐怖もない安全な村まで無事にたどりついた』と。こう考えることによって彼は歓喜を得、心が安らかとなる。

これとまさに同じく、前に挙げた精神統一の障害、すなわち渇望・悪意・倦怠・心の浮き沈み・疑いを自己の中において克服しないかぎり、それらを借金のように、病気のように、牢獄のように、奴隷のように、荒野の旅路のようなものと見る。しかし、これらの障害を自己の中において克服したとき、その者は、それをあたかも、借金から解放されたように、病気がなくなったように、牢獄から放免されたように、自由を手に入れたように、安全な土地にいる者のように見る。

このようにしてあらゆる障害が取り除かれているのを自己のなかに見るならば、その人には喜悦が生じ、心が喜悦した人は身体の軽やかな安らぎが生じ、身体が軽やかに安らいだ人は幸福を覚え、幸福な人の心は安定を得るに至る。




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