categories



  管理人 E-Mail:
info@rzt.sakura.ne.jp
アドレスは定期的に変更しています
元レンジャー隊員のブログ

最終想定へ

ある日の早朝。暗闇の中。
「ピッ」
俺達が寝ている天幕(テント)に笛が吹かれた。
その瞬間皆一斉に飛び起きた。
非常呼集だ。
「非常呼集。ただちに集合せよ。服装は迷彩服上下半長靴、弾帯・・・」
服装と集合場所を告げて助教がすぐに出て行った。
心の中で悲鳴を上げながらも全速力で着替え、靴を履く。
着替えながら煙草に火をつけ、枕元に置いておいた食べ物と栄養ドリンクをかきこんだ。
指定の場所へ全員そろって駆け足。整列して点呼報告。笛が鳴ってから報告が完了するまで、その間数分。
「総員16名。事故3。事故の内訳××××。現在員15名。その他健康状態異常なし!」
点呼終了。教官から命令が下達される。
次の新たな任務。レンジャー戦闘隊の編成。
そして今回の任務完了後の最終離脱目的地は駐屯地だということが告げられる。
駐屯地・・・・・一瞬なつかしさが込上げる。
いよいよ最後の想定訓練に入るということだ。
第9想定。これがラストだ。
行動計画を立て、装備を整えたら出発準備となる。
最後の山場。長い想定訓練になりそうだが、ゴールは確かに存在し、そして近づいているのだ。
想定訓練中は疲労のせいで自分の人生の記憶が思い出せずに悩んだ。
断片的な記憶はあるが、あまりに今の自分の生活とはかけ離れすぎている。
レンジャー訓練以外の日々が消し飛んでしまっていた。
当時20歳だった俺にとって、その断片的だが思い出される記憶とは両親のことだった。
自分をここまで育ててくれた人の愛情が、自分に何があっても、まるで魔法のように効いていることを知った。
それだけは決して忘れない。
あと自分の好きな映画や音楽はよく覚えていた。ひたすら歩き続ける行軍ではこれらの記憶を積極的に思い出していた。
高校の時に観に行った「ロッキー4」は歩きながら何度も繰り返し思い返していた。
ストーリー、音楽ともに勇気や情熱が湧いてくる映画だ。
好きな歌の歌詞もよく覚えていて、明け方に起きた時によく聴いていた歌は想定訓練中でも、山で夜明けが近づくと思い出した。
考えてみればレンジャー訓練以外のことは、心を奮い立たせるような記憶だけに削ぎ落とされていたように思う。
また訓練期間中は次から次へと先を見据えていなければならず、眠りにつく時でさえ過去を振り返っている暇がなかった。
そして自分がレンジャーになろうと思った原点であり、指標であるレンジャーバッジにすべての照準が合っていた。
不可能と思えることの先にこのレンジャーバッジがある。近づく者に人間の限界に挑戦しろと要求してくる。
こいつを手に入れるにはそれを超えなければならない。
そしてだからこそ、それを手に入れればすべてが変わる。
不可能に思えることが一度でも可能なことに変わればいい。
そのことにはどんな代償でも払う価値がある。
無茶なことでもやれる。
たとえぼろぼろになっても、真に自分を生かせる道だ。
こんな方法を選んだ俺はバカかもしれない。
だが自分にできる最大限のことは、自分のこの身をもってレンジャー訓練に飛び込むことだった。
そしてそれを乗り越えることだった。


RANGER BLOG  ¦  BACK  ¦  NEXT  »




Copyright © 2005-2007 元レンジャー隊員のBLOG  All Rights Reserved.