シュプランガーの価値類型

人は常に周囲の環境社会と関係をもちながら生活しているが、その社会生活上の諸活動や文化の諸領域への関心や価値志向のあり方を見ると、そこには人によって様々な相違が見られる。シュプランガー(Spranger, E. 1914)は人間の精神活動がいかなる価値を中心的価値として追求しているかによって、次のような類型を立てた。

理論人(der theoretische Mensch)

彼の心は純粋な客観性に向けられている。感情・欲求・嗜好・嫌悪・恐怖・希望などに対する対象の関係は彼にとって無意義であり、彼はただ客観的認識への熱情を知るだけである。彼はひたすら真理を追究するが、実生活上の問題の解決には無力である。個人主義になる。

経済人(der ökonomische Mensch)

彼はすべての生活関係のなかで実用的な着眼点を重要視する。実際的人間と呼んでもよい。彼の行為の主要価値は行動自体のなかにあるのではなく、そこからもたらされる実用的効果に存する。彼はすべてのものをその利用価値に従って経済的見地から判断する。彼はまったく利己的であり、その欲望の目的は財産である。

審美人(der ästhetische Mensch)

彼は現実的な欲求や行動に直接つながりあうことをせず、むしろ理論的な思慮を離れて生活の様々な遊びを楽しく観照する。そうした人びとのうち、生活の印象を純粋に受動的な態度でとらえ、すべてのものからあたかもその芳香を吸収するような人が印象派(Impressionist)であり、他方、あらゆる印象に対して自己固有の主観的色彩を付与するような、強烈な内面性を有する主観的性質の人が表現派(Expressionist)である。この型の人びとにとっては美は最高の感覚充実であり、また人生の本来の生活価値である。

社会人(der soziale Mensch)

社会的態度は他人の生活への関心であり、共同社会との献身的な融合である。その最高度の発現は社会的な精神愛であり、対象は個人から社会全体にまでおよぶことになる。彼らは他の人びとに助力することのなかに自己の生活の最高の価値を見出す。彼らは思慮も打算もせず、経済的な原理に対してはきびしく対立する。しかし、純粋の社会型は稀であって、精神的献身の行動は同時に自己価値の高揚として体験される。社会型の最高の現世的表現形式は母親であり、その場合は愛の本能が全人格を構成する生活意志になるのである。

権力人(der Machtmensch)

彼は権力意識と権力享楽に傾倒し、支配と命令を志向する。彼は自らを力として感受し、その力のなかでのみ彼独自の生活意識を満たしていく。生活上すべての価値領域は彼の権力欲に奉仕させられるのであって、知識は支配の手段であり、芸術は権力衝動の展開に奉仕すべきものとされる。この権力人を経済人と混同してはならない。権力人は節約とか労働とかの経済の法則には従わず、むしろ外交や談判、征服や強制によって事態を処理するのである。

宗教人(der religiöse Mensch)

信仰の核心は存在の最高価値を探求するところにある。至高のものを自己のなかに見出した者は、法悦と救済を感ずる。ところで、この型のなかにもいろいろな相違が見られる。すなわち、内在的神秘家(immanenter Mystiker)の宗教は絶対的な生命肯定を志向しており、人生のすべての積極的価値のなかに神性の発露を見出す。他方、超越的神秘家(trnszender Mystiker)はすべての生活価値を存在の生活価値とは無関係のものと見て、最高価値を極端な現世否定の道の上に見出そうとする。しかしこれら両者の極端なものは稀であって、普通は双方の結合型が存在する。

シュプランガー(Spranger, E. 1914)の価値類型

防衛機制

一般に外的な環境からの危険に対して自己を守ることを防衛というが、精神分析では主として内的な危険、すなわち不安から自己を守ることを防衛という。すなわち、内部から発する衝動や自我との葛藤、あるいはそこから起きる不安を避け、自分を守ろうとする行動のしかたを防衛機制(defence mechanism)という。これは破局を避けることによって、生活体と環境との間の不均衡を回復して安定した適応状態をもたらそうとすることにほかならないので、適応機制(adjustment mechanism)と同じことである。

欲求不満の状態に陥ったときに、いたずらに情緒的反応に走らず、これに真正面から積極的に取組み、現実の客観的認識および分析の上に立って、その場にもっとも有効適切な方法によって問題を解決しようとする理性的、合理的な態度がとられることもあるが、多くの場合は情緒的反応によって不合理な解決のしかたがなされやすい。この場合の行動様式すなわち防衛機制も種々様々であるが、その主なものは次のとおりである。

1.攻撃(aggression)

ダラード(dollard, J.)らは攻撃はつねに欲求不満の結果であるという仮説を提唱したが、欲求が満たされないときの最も基本的な反応様式は攻撃で、特に年少者に多く見られる。これによって、一時的には緊張の解消が起こることがある。

攻撃の対象は普通は妨害要因そのものに直接向けられるが、この攻撃が社会的に許されないとか、攻撃しても歯が立たないとか、かえって罰せられるというような場合は、この攻撃的行動への妨害がより強度の欲求不満を引き起こし、ここに悪循環が生ずる。このように禁止された攻撃的行動は他の対象に置き換えられたり(八つ当たり)、変わった形であらわれたりする(空想による代償的満足)。また、攻撃の対象も形も変化したひとつの場合として自己攻撃がある。すなわち、攻撃が外部に向けられない場合、内向して自己軽蔑、自己嫌悪となり、更にはなはだしいときは実際に自分の体を傷つけたり、自殺を試みたりする。

2.逃避(escape)

これは欲求が阻止された困難な場面や不安を感じさせる場面から逃げ出し、更に緊張が高まるのを防いだり、消極的に身を守ることによって安定性を取り戻そうとすることである。これは、単に退くことによって身の安全をはかる退避(物理的逃避、中止、あきらめ)、現実で満たされない欲求を自由な空想の世界で代償的に満足させようとする非現実への逃避、または空想への逃避(空想、白昼夢、回想)、当面する問題を避けて、それとは直接関係のない他の活動に没頭する他の現実への逃避(レクリエーションその他)などがある。また特殊な場合として、適応困難な状況に直面することが避けられなくなったとき、その状況への適応行動に欠くことのできない機能が働かなくなる病気への逃避がある。これは当人に意識されずに起こり、ヒステリーにしばしば認められる。いずれにせよ、逃避するだけでは当面の困難を回避することはできても、本来の欲求の満足は得られないので、緊張は充分には解消されない。

3.退行(regression)

これは一種の逃避とも考えられるが、人格の内部構造の未分節化に伴って生起する未成熟な段階での行動をとることをいう。すなわち、現在より低い発達段階でのみ許容されるような幼稚な行動をとることをいう。たとえば、親から可愛がられていた子どもがが、弟妹の誕生によって愛情の欲求が阻止されると、指をしゃぶったり、夜尿をしたり、よく泣いたり、急にわからずやになったりするのがこの例である。

4.補償(compensation)

自分のある面での欠陥や欠点を、他の面での優越性によって補うことをいう。身体が弱くて運動の苦手な子が、勉強に専念して、運動での不満をカバーしようとするのが、この例である。また、配偶者への不満を子どもへの盲愛によって補おうとするのもそうである。

5.昇華(sublimation)

反道徳的な欲求は、社会的な力によってその自然の発現が抑制されているので、そのような欲求を満たすためには、社会から承認される形に変形しなければならない。この変形過程を昇華と呼ぶ。たとえば、宗教や芸術的活動、映画やダンスには性的欲求の昇華が見られ、スポーツやゲームは攻撃欲求の昇華が考えられる。

6.置換え(displacement)

ある対象に向けられていた欲求が満たされないと、対象を他のものに置換え、それによって不満による緊張を解消しようとするメカニズムである。父親に対する敵意や憎悪を職場における上役や、学校における教師に対して持ったり、母親に対する依頼心が、後に恋人に対する甘えの感情のなかに残っていたりするのがこの例である。このように人から人に置き換えられるだけでなく、人から動物へ、または物に置き換えられることもある。たとえば子どものいない夫婦が猫を可愛がったり、孤児院を経営したり、骨董品を集めたりするような場合である。

7.抑圧(repression)

これはそのままの形で発現すると不安や破局を招くおそれのある欲求や感情を、意識しないように無意識の世界に押しこめてしまうことをいう。人間が社会的に適応していくためには、抑圧ということは大変必要なことである。しかし、抑圧された欲求は、本人は意識しないが、解消されないまま精神的にしこり(complex)となって無意識のなかに蓄積され、これが無意識的に葛藤を引き起こし、折にふれて形を変えて意識界に現われて、不適応をもたらすことが多い。神経症的兆候の多くはこのような場合である 。

8.反対構成(reversal formation)

そのままの形で発現することが好ましくない欲求が抑圧された場合に、それと反対傾向の行動として表出されることをいう。きびしい禁欲主義や性への蔑視が強い性的関心から発していたり、継子に対する過度のあまやかしが、実はその子に対する無意識的な憎しみから発しているような場合が、この例である。

9.固定または固着(fixation)

これはある行動がその際の状況とは無関係に、紋切り型に持続するこという。欲求不満を反復経験すると、行動の柔軟性が消失して、問題解決には無益な、あるいは不合理な特定の行動が、強力に、持続的に繰り返されることがある(頭をかく、舌を出す)。

10.同一化(identification)

これは自分よりすぐれた人と自分とを同一視することにより、自己の欠点や弱点を補い、不安を減少させ、その価値を増大し、満足を得ようとすることである。尊敬する人の服装や口調をまねたり、自分の親や出身校の自慢をしたり、映画や小説に熱中してその主人公と自己を同一視して現実には阻止されている欲求を満足させるなどは、この例である。また虎の威を借りる狐の類もこれである。

11.合理化(rationalization)

これは自分の失敗や欠点を承認すると自己の価値が低下するので、これを認めようとしないで、もっともらしい理屈をつけてこれを正当化し、自分の価値を保持しようとすることである。仕事がうまくできないと道具のせいにしたり、能力が足りなくて試験に失敗しても問題が悪いといったり、体の調子が悪かったといったり、仮に受けたのだといったりするのが、その例である。イソップ物語にあるすっぱいぶどうや甘いレモンの理屈もこの機制である。

12.投射(projection)

これは自分を他人の中に転置するメカニズムで、心中ひそやかに抱き、押さえている好ましくない欲求や感情があるとき、これを自己のなかに認めると不安になるので、これを他人に移しかえ、他人がそれをもっていると思いこむことである。このメカニズムは無意識的に営まれる。異性間の嫉妬、攻撃的傾向などに、よくこの投射が現われる。これが病的になると被害妄想になる。投射のもうひとつの形式は、自分の失敗や欠点から生ずる非難を他人のせいにすることで、いわゆる責任転嫁である。

欲求不満

われわれの社会では欲求がただちに満足されることは少なく、制限されたり、抑圧されたり、あるいは待機させられたりすることが多い。このように目標に向けられた行動をはばむ条件を障害というが、何らかの障害によって欲求の満足が阻止された場合には、その障害を除去し、乗り越え、あるいは回り道を発見して解決したり、また、他の代わりの目標に切りかえて代償的満足を得たり、要求水準の低下をはかったりする。ところが、それでもなお欲求の満足を阻止している条件を排除することができず、しかもその欲求はあきらめることができないような場合には、その人は落着きを失い、内部の緊張から焦燥の状態に陥る。このように、ある欲求に基づいてある目標に向けられた行動が阻止されることを欲求不満(frustration)といい、このような状況を欲求不満事態(frustration situation)という。

欲求不満を起こす原因は、物理的障害であったり、対人関係などの社会的条件であったり、また、自己の能力だとか、他の種々なる欲求との葛藤などの内的条件であったり、さまざまであるが、ローゼンツヴァイク(Rosenzweig, S.)はこれを次のように分けている。

1.外部的原因

(1)欠乏(privation)    欲求を満足させる対象が本来存在しない場合。食料の欠乏とか、子どもが友達と同じ玩具をもっていない時などがその例である。

(2)喪失(deprivation)    今まで存在していた欲求満足の対象が失われた場合。愛情の対象との別離、好きな玩具の破損、失職など。

(3)葛藤(conflict)    外的な妨害物または障壁のため心理的葛藤が生ずる場合。雨のため子どもの活動の欲求が阻止されたり、交通機関のストライキによって目的地に行かれなくなった場合など。

2.内部的(個人的)原因

(1)欠乏(欠陥)    欲求を満足させるのに必要な機能を欠いている場合。身体的な欠陥、知能が低いこと、能力の欠如など。

(2)喪失(損傷)    今までもっていた欲求満足のために必要な機能が失われた場合。病気や負傷などの場合。

(3)葛藤    個体内の抑圧などによって心理的葛藤が生ずる場合。道徳的水準が高すぎて、良心とか内的抑制傾向とかによって自己の行動が抑制されて、本来の欲求との間に葛藤を生じたり、あるいは失敗の不安や他人から笑われるかもしれないという恐れなどが行動の障壁となる場合である。

 

欲求不満はこれらの原因が客観的に存在することによって起こるのではなく、むし ろ、これらの原因の主観的な受けとり方が問題である。時には予想された障壁によっても欲求不満が生ずる。また欲求不満が起こるためには、欲求が強いことが前提となるので、基本的欲求が満たされない時に起こりやすい。特に人格的欲求が問題となる。

われわれの社会生活には幾多の障壁が存在するので、欲求の阻止を経験しないではすまされない。しかしながら、欲求阻止の状態がどの程度まで進行したら欲求不満状態に陥るかは、個体によってかなり異なる。すなわち、人はある程度までこれに耐える力をもっており、この欲求不満に耐える力をローゼンツヴァイクは欲求不満耐忍性(frustration tolerance)と称した。

このトレランスは次のような条件に規定される。

(1)生活経験    一般的にトレランスは年齢が進むにつれて増大するが、このことはトレランスが学習のもたらす結果であることを意味する。従って、幼児からの生活経験が問題となる。幼少の時から欲求の充足が容易で、欲求不満の経験が少なすぎると、要求ばかり高くてトレランスは形成されない。また、あまり強い欲求不満をしばしば経験しすぎると、劣等感が強くなり、欲求不満を克服する適当な方法が習得できないで、これまたトレランスは形成されない。これに対して、適当な強さの欲求不満を適当な間隔をおいて経験し、それに適切な家庭教育や社会的訓練が加えられると、欲求不満を克服する合理的方法が学習され、その成功感によって次第に高度の困難にも耐えていくようになる。

(2)知的、技術的能力    知的能力が高く、現実生活についての知識をもっていたり、一定の技術を身につけていれば、欲求不満を克服することができるからトレランスは強くなる。

(3)性格    一般に内向性の人は少しの欲求不満にも挫折しやすいが、外向性の人は少々の欲求不満には負けず、積極的にこれを克服しようとするので、トレランスが強いといわれている。

(4)生理的・身体的条件    正常人に比較すると、身体障害者や神経症患者、アルコール中毒患者などはトレランスが弱い。また、正常人でも疲労時や病気中は一時的にこれが弱まる。

葛藤

人は一時にただひとつの目標だけを追求しているわけではない。互いに相克し、両立しがたい目標を追求することも多い。2つ以上の欲求または動機が同時に存在し、それに基づく誘発性の強さがほぼ等しく、かつそれらの目標としていることが相互に相容れない反対の方向になっているような時は、力が釣り合って、人はその位置から動くことが困難になる。かかる状態を葛藤場面(conflict situation)と呼ぶ。葛藤場面には次のような3つの基本的形態があることをレヴィン(Lewin, K. 1935)が示した。

1.接近 - 接近葛藤(approach-approach conflict)

2つの正の誘発性の間に位置する場合。つまり、両方魅力的であるがどちらかひとつを選ばなければならず、一方を選べば他方を断念しなければならないような事態である。この場合は葛藤場面の中では比較的たやすく行動は決定され、それほど強い緊張状態は起こらない。というのは、正の誘発性をもった対象は、人がそれに接近するほど人を引きつける力を増大し、人が遠ざかるほど人を引きつけるを力減少させるので、一方の目標へいったん接近すると、場の力のバランスは破れ、接近した方の目標に向かう行動がとられるからである。ただし、両者の魅力が大であるほど、また、両者の魅力が小さいほど、決定に時間を要する。

2.回避 - 回避葛藤(avoidance-avoidance conflict)

二つの負の誘発性の間に位置する場合。"前門の虎、後門の狼"といった進退きわまった状態である。負の誘発性をもった対象は、人がそれに接近するほど人を退ける力を増大し、人が遠ざかるほど人を退ける力を減少させる。この場合、一方の対象から遠ざかれば、他方の対象にそれだけ接近することになり、前者の人を退ける力は減少しても後者のそれは増大する。従って、人は振子運動をして、未決定の状態が比較的長く継続し、苦しい状態におちいる。人はなんとかしてこの状態から逃げ出そうとする。この脱出を防ぐためには、その人の自由度を制限し、強固な障壁を設けることが必要である。そうなると、ますます強い緊張状態が発生し、心理的逃避や、退行現象、放心状態、身体硬直などが起こる。戦争神経症はこのような事態において発生する。この葛藤の方が前の葛藤より選択、決定に時間がかかることが多い。

3.接近 - 回避葛藤(approach-avoidance conflict)

正と負の誘発性が同じ方向に存在する場合。"みたし、こわし"の状態とか、"虎穴にいらずんば虎児を得ず"といった場合である。これは同一の対象が正と負の誘発性を同時にもっている場合と、正の誘発性をもった対象に到達するために負の誘発性をもった領域を通過しなければならない場合とがある。このような事態では、対象からある程度離れている時には、負の誘発性の人を退ける力は減少するが、正の誘発性に引かれて対象に接近すると、人を引きつける力より退ける力のほうが強くなる。従って、人はある地点まで対象に接近したところで、引きつける力と退ける力とが釣り合い、そこで立ち往生し、対象に近づいたり離れたりという動揺的行動をとる。

攻撃行動

1.攻撃の7つの側面

バスとダーキー(Buss, A. H., & Durkee, A., 1957)は攻撃を7つの側面に分類している。

(1)暴力(assault)

他者に対する身体的暴力。他者との喧嘩は含むが事物の破壊は含まない。

(2)間接的攻撃(indirect hostility)

遠まわしの攻撃と方向のない攻撃で、前者は悪意のあるゴシップ、いたずらなど。後者はかんしゃくをおこしたり、乱暴にドアを閉めるなど。

(3)いらだち(irritability)

些細な刺激で否定的な感情を爆発させる準備状態で、怒りっぽい、不機嫌になりやすい、すぐ憤慨する、すぐ粗野になるなど。

(4)反抗(negativism)

通常は権威に向けられる反抗的行動で、消極的な不服従から規則や慣習を破るなどの協調の拒否まで含む。

(5)恨み(resentment)

他者に対する嫉妬や憎しみで、実際に不当な扱いをされたとか不当な扱いをされているとの思いが関連する。

(6)疑惑(suspicion)

他者に対する敵意の投射で、他者に対する不信や警戒から他者が自分の権威を傷つけたり危害を加えようと計画しているという信念まで含む。

(7)言語的攻撃(verbal hostility)

話し方や内容で否定的感情を表現するものである。話し方は言い争う、怒鳴る、金切り声を出すなどで、内容は脅し、悪態、酷評など。

2.攻撃の理論

攻撃行動を説明する代表的な考え方に以下の理論がある。

フラストレーション - 攻撃説

ダラードら(dollard, J., et al., 1939)による説で、フラストレーション(frustration : 欲求不満)は攻撃動因を高め、必ず何らかのかたちで攻撃を引き起こし、さらに攻撃は先行のフラストレーションなくしては起こらないとする考え方である。

攻撃手掛かり説

攻撃の源泉はフラストレーションだけでなく、他者からの言語的ないし身体的攻撃や、既存の攻撃習慣も攻撃のレディネス(readiness : 準備状態)をつくる。さらに、攻撃のレディネスがあっても、攻撃行動を引き起こすためには、適当な手掛かり、すなわち、現在ないし過去の攻撃と結びついた刺激(例えばピストルとかナイフなど)が存在しなければならない(ただし、攻撃レディネスが極端に高いときは手掛かりがなくとも引き起こされる)とするバーコヴィツ(Berkowitz, L., 1965)らの考え方である。

攻撃の社会的学習理論

他者の攻撃行動を見たり、攻撃行動が称賛されたり、称賛されているのを見ると、攻撃行動は促進される。バンデュラ(Bandura, A.)は一連の実験から、観察学習(observational learning)あるいはモデリング(modeling)の重要性を示している。 ロスら(Ross, D., & Ross, S. A.)との研究(1961)では、大人がプラスチック製のボボドールという人形を口汚くののしったり、蹴ったりするのを見た幼児は、その人形と遊ばせると、見なかった幼児より、攻撃的な行動が多く見られた。もちろん人形に対してだけでなく、生身の人間に対しても同様のモデリング効果が見られる(Bandura, A., et al., 1963)。また1965年の研究では、ボボドールを棒でたたく攻撃的なモデルが罰せられるのを見た子どもたちは、その攻撃的なモデルがほめられるのを見た子どもたちより、攻撃行動が少ないことを示している。

攻撃の本能理論

死の本能(Thanatos : タナトス)を仮定したフロイト(Freud, S., 1933)は、人間は生まれながらにして攻撃本能をもつので、攻撃行動を減少させることはできないとし、攻撃を非破壊的な方法で処理できる機会を人びとに与えることが大切だと述べているている。

攻撃の生物学的理論

生化学的には扁桃核や視床下部などの興奮と攻撃行動との関わりがあることが知られている。

3.攻撃行動のコントロール

カタルシス

ダラードらによれば、一度攻撃行動をとると心理的緊張が低くなり、攻撃行動を低減できるが、フィッシュバック(Feshbach, S., 1955)は、実際に攻撃行動をとらなくとも、頭の中で空想するだけで攻撃動因を軽減できるとしている。これをカタルシス(catharsis)効果と呼ぶ。

モデリング

攻撃行動をとらないモデルへの接触は、カタルシスより有力な攻撃行動の抑制につながる。ミルグラム(Milgram, S., 1965)によれば2人が同盟して攻撃行動をとることを拒否しているのを観察した被験者は、攻撃行動を求める実験者の要請に従おうとはしなかった。バロンとケプナー(Baron, R. A., & Kepner, C. R., 1970)の実験結果もミルグラムの結果を支持している。

賞罰

ボボドール人形に攻撃行動をとった子どもをほめると、ほかの子どもへの攻撃行動がみられる(Walters, R. H., & Brown, M. A., 1963)が、逆に罰した場合は攻撃行動は抑制される(Deur, J. D., & Parke, R. D., 1970)。しかし罰の効果は両刃の剣で、罰というおどしがかえって攻撃行動を助長する(Walters, R. H., & Thomas, E. L., 1963)場合もあり、たとえ攻撃行動を押さえることができても一時的である(Estes, W. K., 1944)ことも示されている。一方、攻撃的な行動をとらないことをほめることでも攻撃行動は抑制できる(Brown, P., & Elliot, R., 1965)。

反攻撃的価値の内面化

攻撃行動をコントロールするためには、教育によって、暴力的で破壊的な行動はしてはいけないことだという価値観を内面化していくことも重要である。

共感性

攻撃によって受けている被害者の苦痛(victim pain)を、その人の立場になって感じるとることのできる共感性豊かな人は攻撃行動を抑制することができる(Feshbach, N. D., & Feshbach, S., 1969)。

マレーの心理発生的要求リスト

社会的動機といわれるものの種類は極めて多く、その分類もいろいろと試みられている。

A. おもに生きていない対象と結びついた要求

1.獲得(acquisition)     所有物と財産を得ようとする要求

2.保存(conservation)     いろいろなものを集めたり、修理したり、手入れしたり、保管したりする要求

3.秩序整然(orderliness)     ものを整頓し、組織立て、片づけ、整然とさせ、きちんとする要求

4.保持(retention)     ものを所有し続け、それを貯蔵する要求; かつ質素で、経済的で、けちけちとする要求

5.構成(construction)     組織化し、築き上げる要求

B. 大望、意志権力、成就欲、および威光に関係する要求

6.優越(superiority)     優位に立とうとする要求、達成と承認の複合

7.達成(achievement)     障害に打ち勝ち、力を行使し、できるだけうまく、かつ速やかに困難なことを成し遂げようと努力する要求

8.承認(recognition)     賞賛を博し、推薦されたいという要求; 尊敬を求める要求

9.顕示(exhibition)     自己演出の要求; 他人を興奮させ、楽しませ、扇動し、ショックを与え、はらはらさせようという要求

10.不可侵性(inviolacy)     侵されることなく、自尊心を失わないようにし、"よい評判"を維持しようとする要求

11.劣等感の回避(avoidance of inferiority)     失敗、恥辱、不面目、嘲笑を避けようとする要求

12.防衛(defensiveness)     非難または軽視に対して自己を防衛しようとする要求; 自己の行為を正当化しようとする要求

13.中和(counteraction)     ふたたび努力し、報復することによって敗北を克服しようとする要求

C. 人間の力を発揮し、それに抵抗し、あるいはそれに屈服することに関係のある要求

14.支配(dominance)     他人に影響を与え、あるいは統制しようとする要求

15.恭順(deference)     優越者を賞賛し、進んで追随し、喜んで仕えようとする要求

16.模倣(similance)     他人を模倣、またはまねようとする要求; 他人に同意し、信じようとする要求

17.自律(autonomy)     影響に抵抗し、独立しようとする要求

18.反動(contrariness)     他人と異なった行動をし、独自的であろうとし、反対の側に立とうとする要求

D. 他人または自己に障害を与えることに関係する要求

19.攻撃(aggression)     他人を攻撃したり、または傷つけたりしようとする要求; 人を軽視し、害を与え、あるいは悪意をもって嘲笑しようとする要求

20.服従(abasement)     罪を承服甘受しようとする要求; 自己卑下

21.非難の回避(avoidance of blame)     しきたりに反する衝動を抑えることによって非難、追放または処罰を避けようとする要求; 行儀よく振舞い、法に従おうとする要求

E. 人間間の愛情に関する要求

22.親和(sffiliation)     友情と絆をつくる要求

23.拒絶(rejection)     他人を差別し、鼻であしらい、無視し、排斥しようとする要求

24.養護(nurturance)     他人を養い、助け、または保護しようとする要求

25.求援(succorance)     援助、保護または同情を求めようとし、依存的であろうとする要求

F. その他、社会的に関連した要求

26.遊戯(play)     緊張を和らげ、自分で楽しみ、気晴らしと娯楽を求める要求

27.求知(cognizance)     探索し、質問し、好奇心を満足させる要求

28.解明(exposition)     指摘し、例証しようとする要求; 情報を与え、説明し、解釈し、講釈しようとする要求

マレーの心理発生的要求リスト(Murray, H.A., 1938)

動機づけ

動機づけ(motivation)についてはいくつかの定義があるが、ここでは、行動を解発させ、それを特定の方向に導き、さらにそれを維持強化する一連の行動発生の過程のことと定義する。この定義のなかで、個体内部の行動を解発させる原動力が動機、動因、要求(欲求)などと呼ばれる。一方、対象が帯びる力を目標(goal)とか誘因(incentive)という。目標や誘因は行動を誘発させる対象魅力のようなものであるが、接近したい対象(正の目標・誘因)もあれば回避したい対象(負の目標・誘因)もある。

動機づけの過程は、一般的にいえば、欠乏状態により生じた個体内部の不均衡から生じた緊張(tension)状態を、目標への接近を果たすことにより低減させる過程であり、一種の欲求充足の過程でもある。充足できれば快や満足を得るが、何らかの理由で目標への接近が果たせなければ欲求阻止・非充足の状態におちいることになる。これが欲求不満(frustration)と呼ばれる状態である。

動機の種類

1.生理的動機

生理的動機はまた、ホメオシタシス性動機(homeostatic motive)とも呼ばれる。ホメオシタシス(homeostatic)とはキャノン(Cannon, W.B.)により提唱されたものであり、もともと生物が外部環境状態の変化にかかわらず自己の状態の恒常性を保つ動的な平衡状態のことを意味し、生命の維持、および環境への適応の上から不可欠な機能である。体温、脈拍、呼吸数、空腹、渇、睡眠、排泄、寒暑による体温調節などの諸動機が含まれる。これらの動機について、視床下部 (hypothalamus)を中心とした中枢での生理的メカニズムや、食行動を中心とした心理・生理学的研究も多い。

2.性動機(sexual motive)

生理的動機あるいはホメオシタシス性動機の多くは充足されないと死に至るが、性の動機については禁欲したからといっても種族保存の機能が果たせないだけのことで死に至るわけではない。このような論理から性の動機はホメオスタシス性動機の範疇に入れないのがふつうである。

性の動機はエストロゲン(estrogen: 卵胞ホルモン)とかアンドロゲン(androgen: 男性ホルモン)といった性ホルモンや神経的メカニズムの働きを基礎とするが、高等動物、ことに人間においては大脳の関与も大きく、異性刺激(例えば身体つき、所作、音声など)によっても解発される。あるいは記憶再生されたイメージや言語のような非直接的刺激によっても喚起される。あるいは、主要な性ホルモンの分泌が阻害されても、かなりの程度の性行動が生じることも知られており、性ホルモン以外による動機の解発を示している。

3.内発的動機(intrinsic motive)

内発的動機とは、行動目標が外在しないで活動それ自体が生活体に快や満足をもたらすような動機であり、自発的活動(spontaneous activity)ともいう。ビューラー(Buhler, K.)は、これらの活動が器官を働かせること自体が快だとして、「機能の快(Funktionlust)」と呼んだ。生活体の基本的特性というべき環境を探索したり[探索動機(exploratory motive)と呼ばれる]、いろんなものに触ってあれこれ操作したり[操作動機(manipulation motive)と呼ばれる]するような行動を惹起する動機である。

4.社会的動機(social motive)

社会的動機は、特に人びとの適応行動を考える上で重要である。それは学習や経験により獲得されるものであり、心理発生的動機と考えられる。社会的動機は生理的動機などから派生してきたものというより、生理的動機を充足するための社会的生活から発生してきたものであり、充足のための手段や道具とみなされていたものが行動目標化して、それを獲得しようとする動機である。

社会的動機に関しては、マーレー(Murray, A.H., 1938)がそのパーソナリティ論の中でそれを心理発生的要求(psychogenetic need)と呼び、分類リストを示している。この中の比較的実験的研究が進んでいる社会的動機に親和(affiliation)、達成(achievement)、攻撃(aggression)などがある。

(1)親和動機     友情と絆をつくりたいとする動機である。他者との友好的接触を保ち、好意を交換し、協力し合いたいなどの欲求であり、親子間、夫婦間、職場や地域の仲間同士などに見られるものである。

親和動機に関する研究結果としては、一般に、親和動機の強い人は他者への接触、特に相手の承認を求めるような傾向が強いこと、仲間を選ぶ場合、有能な人より親しい人を選ぶ傾向が強いことなども指摘されている。また、幼児期に両親や他者への依存傾向を高めた(比較的甘やかされた)長子やひとりっ子は、中間子や末子よりも親和動機が強くなる傾向があるという。

(2)達成動機     困難にめげず、自分の持てる力をフルに活用し、何かを成し遂げようとする動機である。このことから、この動機は自我関与もしくは自己実現の特性を持ち、要求水準とも密接な関係を持っている。マッククレランドら(McClelland, D.C. et al., 1958)はマレー(1938)のTAT(絵画統覚検査)図版を利用し、達成動機が現実のいろいろな行動とどのような関係を持つかについての広汎な研究を行なっている。それによれば高い達成欲求を持った人に共通する行動特性、態度特性として、1.個人的責任感が強く、概して成績がよい、2.適度な危険への挑戦的傾向、3.活動結果の成績を知りたがる傾向、4.達成すべき目標と手段を明確に認識している、5.優れた才能を持つ人に対する接近傾向がある(仲間を選ぶ場合親しさではなく有能さで選ぶ)などの結果を見出した。

達成動機は幼少期のしつけの型によって影響されるといわれ、「・・・してはいけない」という制限型のしつけより「・・・したらどうか」という自立型のしつけの方が高い達成動機の人間をつくるという研究もある(しかし極端な要求のしすぎは達成欲求高揚には妨害となる)。

(3)攻撃動機     害意をもって他人(時には自分も)を攻撃したりする動機である。相手にとって有害な刺激(言動)を与えることではあるが、例えば混雑する電車内でうっかり相手の足を踏んでしまったような行為は、相手への有害な行為ではあっても偶発的側面が強く攻撃の範疇には入れない。



Copyright © 2007 心理学COCOROの法則  All Rights Reserved.