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自己実現している人の特徴

マズロー(1987)は、自己実現を果たした多くの歴史上の人物と当時存命中だったアインシュタインやその他の人物の事例研究をし、自己実現的人間の全体的特徴として、15の特性をあげている。

1.現実をより有効に知覚し、それとより快適な関係を保つこと

芸術や科学、社会政治的な問題の背後にある実体をすばやく、正確に読み取ることができる。願望・欲望・不安・恐怖・楽観主義・悲観主義などに基づいた予見をしない。新鮮・具体的・個別事例的・一般的・抽象的で類型化されたことを識別する能力がすぐれている。

未知なものにおびえたり、驚いたりすることがない。未知なものを受け入れ、気楽に接し、引かれる。あいまいなものや形をなさないものに耐え、好む。

2.受容(自己・他者・自然)

人間性のもろさ、罪深さ、弱さ、邪悪さを、ちょうど自然を自然のままに無条件に受け入れるのと同じように受け入れることができる。

現実をあるがままに見、曲解はしない。防衛、保護色、見せかけの態度がなく、他人のそのような不自然さを嫌う。

3.自発性、単純さ、自然さ

行動、思想、衝動などにおいて自発的である。行動の特徴は単純で、自然で、気取りや効果を狙った緊張がない。

4.課題中心的

自分たち自身以外の問題に強く心を集中させる。自己中心的ではなく課題中心的。

哲学的、倫理的な基本的問題に関心があり、広い準拠枠のなかで生きている。木を見て森を見失うことがない。広く、普遍的で、世紀単位の価値の枠組みをもって仕事をする。

5.超越性─プライバシーの欲求

独りでいても、傷ついたり、不安になったりしない。孤独やプライバシーを好む。

争いごとに対して超然としていることができる。客観的で、集中力があり、問題や心配事があったり、重大な責任を負っている時でも、熟睡でき、食欲も乱されず、笑いを保つことができる。

このような超越性は、一般的な人たちからは、冷たさ、愛情の欠落、友情のなさ、敵意などに解釈される場合もある。

自分自身で決定し、自分自身で決断をし、行動を開始し、自分自身とその運命に責任感をもっている。

6.自律性─文化と環境からの独立・意思・能動的人間

比較的に物理的環境や社会的環境から独立している。欠乏動機ではなく成長動機によって動かされている。外部から得られる愛や安全などによる満足は必要とせず、自分自身の発展や成長のために、自分自身の可能性と潜在能力を頼みとする。

自己実現的人間にとって、他者が与えてくれる、名誉・地位・報酬・人気・名声・愛は、自己発展や内的成長ほど重要ではない。

7.認識が絶えず新鮮であること

人生の基本的なものごとを、何度も新鮮に、純真に、畏敬や喜び、驚きや恍惚感などをもちながら認識し、味わうことができる。

8.神秘的経験─至高体験

自己実現的人間は、神秘的な経験をもっている。それは、地平線がはてしなく広がっている感じ、力強いと同時に無力である感じ、恍惚感と驚きと畏敬の感じ、時空間に身の置き所のなさであり、とてつもなく重要で価値のある何かが起こったという確信である。このような経験を至高体験という。

9.共同社会感情

人類一般に対して、時には怒ったり、いらだったり、嫌気がさしても、同一視や同情・愛情をもつ。人類を助けようと心から願っている。

10.対人関係

心が広く深い対人関係をもっている。他者にとけこむことができ、愛し、完全に同一視し、自我の境界を取り去ることができる。少数の人たちと、特別に深い結びつきをもっている。これは、自己実現的に非常に親密であるためには、かなりの時間を必要とするからである。

おおよそすべての人に対して、親切で忍耐強いが、偽善的でうぬぼれが強く、尊大で、自己誇張的な人に対しては手厳しい。

自己実現的人間には、何人かの賛美者、弟子、崇拝者がいるが、彼らの献身はやっかいで、苦悩を与え、不愉快であることが多い。

11.民主的性格構造

もっとも深遠な意味で民主的である。階級や教育制度、政治的信念、人種や皮膚の色などに関係なく、彼らにふさわしい性格の人とは誰とでも親しくできる。

自分の知らないことを教えてくれたり、自分がもっていない技術をもっている人たちを、心から尊敬し、自分は謙虚でありえる。

これらの民主的な感覚は、好みに識別力を欠き、ある人と他の人をよく比較しないで同等化することとは違う。

邪悪な行動に対しては、あくまでも闘うという傾向をもっている。

12.手段と目的の区別、善悪の区別

非常に倫理的で、はっきりとした道徳基準をもっていて、正しいことを行い、間違ったことはしない。

手段と目的を明確に区別でき、手段よりも目的の方にひきつけられる。他の人にとっては手段にすぎない経験や活動を目的とみなす。目的への到達と同じく、その過程そのものを楽しむことができる。

13.哲学的で悪意のないユーモアのセンス

自己実現的人間は、悪意のあるユーモア、優越感によるユーモア、権威に対抗するユーモアでは笑わない。彼らがユーモアとみなすものは、哲学的である。笑いよりは微笑を引きだすような、状況に何かを付け加えるというよりは状況に本質的な、計画的ではなく自然にあふれ出るような、しばしば繰り返すことができないような、思慮深く哲学的なユーモアが、彼らには多い。

14.創造性

特殊な創造性、独創性、発明の才をもっている。その創造性は、健康な子供の天真爛漫で普遍的な創造性と同類である。

15.文化に組み込まれることへの抵抗

自己実現的人間は、いろいろな方法で文化のなかでうまくやっているが、非常に深い意味で、文化に組み込まれることに抵抗し、内面的な超越を保っている。

重要ではなく、変えることができない、個人として主要な関心事ではない事柄は大部分受け入れるが、急速な変革が可能な時や決断や勇気が必要とされる時には、闘志を燃やす。

自らが所属する文化のものごとを、比較考察し、分析試験し、味わって、その善し悪しを、自分で決定する。

社会の規制ではなく、自らの規制に従っている。


マズローは、同時に自己実現的人間の欠点もあげている。つまり、彼らは、愚かで、無駄で、思慮に欠けたところもあるし、虚栄心や自尊心、自分自身の作品や、家族、友人、子どもを偏愛したり、かんしゃくを起こし、無慈悲になることもある。

また、精神を集中するあまりに、ぼんやりとしてユーモアを失ったり、日常の社会的丁寧さを忘れることもあるし、他の人たちには苦痛で不都合で、無礼で傷つけられやすい言動をとる時もある。親切すぎて失敗する場合もある。マズローは、完全なる人間は存在しない、という。

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