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動機づけ

動機づけ(motivation)についてはいくつかの定義があるが、ここでは、行動を解発させ、それを特定の方向に導き、さらにそれを維持強化する一連の行動発生の過程のことと定義する。この定義のなかで、個体内部の行動を解発させる原動力が動機、動因、要求(欲求)などと呼ばれる。一方、対象が帯びる力を目標(goal)とか誘因(incentive)という。目標や誘因は行動を誘発させる対象魅力のようなものであるが、接近したい対象(正の目標・誘因)もあれば回避したい対象(負の目標・誘因)もある。

動機づけの過程は、一般的にいえば、欠乏状態により生じた個体内部の不均衡から生じた緊張(tension)状態を、目標への接近を果たすことにより低減させる過程であり、一種の欲求充足の過程でもある。充足できれば快や満足を得るが、何らかの理由で目標への接近が果たせなければ欲求阻止・非充足の状態におちいることになる。これが欲求不満(frustration)と呼ばれる状態である。

動機の種類

1.生理的動機

生理的動機はまた、ホメオシタシス性動機(homeostatic motive)とも呼ばれる。ホメオシタシス(homeostatic)とはキャノン(Cannon, W.B.)により提唱されたものであり、もともと生物が外部環境状態の変化にかかわらず自己の状態の恒常性を保つ動的な平衡状態のことを意味し、生命の維持、および環境への適応の上から不可欠な機能である。体温、脈拍、呼吸数、空腹、渇、睡眠、排泄、寒暑による体温調節などの諸動機が含まれる。これらの動機について、視床下部 (hypothalamus)を中心とした中枢での生理的メカニズムや、食行動を中心とした心理・生理学的研究も多い。

2.性動機(sexual motive)

生理的動機あるいはホメオシタシス性動機の多くは充足されないと死に至るが、性の動機については禁欲したからといっても種族保存の機能が果たせないだけのことで死に至るわけではない。このような論理から性の動機はホメオスタシス性動機の範疇に入れないのがふつうである。

性の動機はエストロゲン(estrogen: 卵胞ホルモン)とかアンドロゲン(androgen: 男性ホルモン)といった性ホルモンや神経的メカニズムの働きを基礎とするが、高等動物、ことに人間においては大脳の関与も大きく、異性刺激(例えば身体つき、所作、音声など)によっても解発される。あるいは記憶再生されたイメージや言語のような非直接的刺激によっても喚起される。あるいは、主要な性ホルモンの分泌が阻害されても、かなりの程度の性行動が生じることも知られており、性ホルモン以外による動機の解発を示している。

3.内発的動機(intrinsic motive)

内発的動機とは、行動目標が外在しないで活動それ自体が生活体に快や満足をもたらすような動機であり、自発的活動(spontaneous activity)ともいう。ビューラー(Buhler, K.)は、これらの活動が器官を働かせること自体が快だとして、「機能の快(Funktionlust)」と呼んだ。生活体の基本的特性というべき環境を探索したり[探索動機(exploratory motive)と呼ばれる]、いろんなものに触ってあれこれ操作したり[操作動機(manipulation motive)と呼ばれる]するような行動を惹起する動機である。

4.社会的動機(social motive)

社会的動機は、特に人びとの適応行動を考える上で重要である。それは学習や経験により獲得されるものであり、心理発生的動機と考えられる。社会的動機は生理的動機などから派生してきたものというより、生理的動機を充足するための社会的生活から発生してきたものであり、充足のための手段や道具とみなされていたものが行動目標化して、それを獲得しようとする動機である。

社会的動機に関しては、マーレー(Murray, A.H., 1938)がそのパーソナリティ論の中でそれを心理発生的要求(psychogenetic need)と呼び、分類リストを示している。この中の比較的実験的研究が進んでいる社会的動機に親和(affiliation)、達成(achievement)、攻撃(aggression)などがある。

(1)親和動機     友情と絆をつくりたいとする動機である。他者との友好的接触を保ち、好意を交換し、協力し合いたいなどの欲求であり、親子間、夫婦間、職場や地域の仲間同士などに見られるものである。

親和動機に関する研究結果としては、一般に、親和動機の強い人は他者への接触、特に相手の承認を求めるような傾向が強いこと、仲間を選ぶ場合、有能な人より親しい人を選ぶ傾向が強いことなども指摘されている。また、幼児期に両親や他者への依存傾向を高めた(比較的甘やかされた)長子やひとりっ子は、中間子や末子よりも親和動機が強くなる傾向があるという。

(2)達成動機     困難にめげず、自分の持てる力をフルに活用し、何かを成し遂げようとする動機である。このことから、この動機は自我関与もしくは自己実現の特性を持ち、要求水準とも密接な関係を持っている。マッククレランドら(McClelland, D.C. et al., 1958)はマレー(1938)のTAT(絵画統覚検査)図版を利用し、達成動機が現実のいろいろな行動とどのような関係を持つかについての広汎な研究を行なっている。それによれば高い達成欲求を持った人に共通する行動特性、態度特性として、1.個人的責任感が強く、概して成績がよい、2.適度な危険への挑戦的傾向、3.活動結果の成績を知りたがる傾向、4.達成すべき目標と手段を明確に認識している、5.優れた才能を持つ人に対する接近傾向がある(仲間を選ぶ場合親しさではなく有能さで選ぶ)などの結果を見出した。

達成動機は幼少期のしつけの型によって影響されるといわれ、「・・・してはいけない」という制限型のしつけより「・・・したらどうか」という自立型のしつけの方が高い達成動機の人間をつくるという研究もある(しかし極端な要求のしすぎは達成欲求高揚には妨害となる)。

(3)攻撃動機     害意をもって他人(時には自分も)を攻撃したりする動機である。相手にとって有害な刺激(言動)を与えることではあるが、例えば混雑する電車内でうっかり相手の足を踏んでしまったような行為は、相手への有害な行為ではあっても偶発的側面が強く攻撃の範疇には入れない。

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