攻撃行動
1.攻撃の7つの側面
バスとダーキー(Buss, A. H., & Durkee, A., 1957)は攻撃を7つの側面に分類している。
(1)暴力(assault)
他者に対する身体的暴力。他者との喧嘩は含むが事物の破壊は含まない。
(2)間接的攻撃(indirect hostility)
遠まわしの攻撃と方向のない攻撃で、前者は悪意のあるゴシップ、いたずらなど。後者はかんしゃくをおこしたり、乱暴にドアを閉めるなど。
(3)いらだち(irritability)
些細な刺激で否定的な感情を爆発させる準備状態で、怒りっぽい、不機嫌になりやすい、すぐ憤慨する、すぐ粗野になるなど。
(4)反抗(negativism)
通常は権威に向けられる反抗的行動で、消極的な不服従から規則や慣習を破るなどの協調の拒否まで含む。
(5)恨み(resentment)
他者に対する嫉妬や憎しみで、実際に不当な扱いをされたとか不当な扱いをされているとの思いが関連する。
(6)疑惑(suspicion)
他者に対する敵意の投射で、他者に対する不信や警戒から他者が自分の権威を傷つけたり危害を加えようと計画しているという信念まで含む。
(7)言語的攻撃(verbal hostility)
話し方や内容で否定的感情を表現するものである。話し方は言い争う、怒鳴る、金切り声を出すなどで、内容は脅し、悪態、酷評など。
2.攻撃の理論
攻撃行動を説明する代表的な考え方に以下の理論がある。
フラストレーション - 攻撃説
ダラードら(dollard, J., et al., 1939)による説で、フラストレーション(frustration : 欲求不満)は攻撃動因を高め、必ず何らかのかたちで攻撃を引き起こし、さらに攻撃は先行のフラストレーションなくしては起こらないとする考え方である。
攻撃手掛かり説
攻撃の源泉はフラストレーションだけでなく、他者からの言語的ないし身体的攻撃や、既存の攻撃習慣も攻撃のレディネス(readiness : 準備状態)をつくる。さらに、攻撃のレディネスがあっても、攻撃行動を引き起こすためには、適当な手掛かり、すなわち、現在ないし過去の攻撃と結びついた刺激(例えばピストルとかナイフなど)が存在しなければならない(ただし、攻撃レディネスが極端に高いときは手掛かりがなくとも引き起こされる)とするバーコヴィツ(Berkowitz, L., 1965)らの考え方である。
攻撃の社会的学習理論
他者の攻撃行動を見たり、攻撃行動が称賛されたり、称賛されているのを見ると、攻撃行動は促進される。バンデュラ(Bandura, A.)は一連の実験から、観察学習(observational learning)あるいはモデリング(modeling)の重要性を示している。 ロスら(Ross, D., & Ross, S. A.)との研究(1961)では、大人がプラスチック製のボボドールという人形を口汚くののしったり、蹴ったりするのを見た幼児は、その人形と遊ばせると、見なかった幼児より、攻撃的な行動が多く見られた。もちろん人形に対してだけでなく、生身の人間に対しても同様のモデリング効果が見られる(Bandura, A., et al., 1963)。また1965年の研究では、ボボドールを棒でたたく攻撃的なモデルが罰せられるのを見た子どもたちは、その攻撃的なモデルがほめられるのを見た子どもたちより、攻撃行動が少ないことを示している。
攻撃の本能理論
死の本能(Thanatos : タナトス)を仮定したフロイト(Freud, S., 1933)は、人間は生まれながらにして攻撃本能をもつので、攻撃行動を減少させることはできないとし、攻撃を非破壊的な方法で処理できる機会を人びとに与えることが大切だと述べているている。
攻撃の生物学的理論
生化学的には扁桃核や視床下部などの興奮と攻撃行動との関わりがあることが知られている。
3.攻撃行動のコントロール
カタルシス
ダラードらによれば、一度攻撃行動をとると心理的緊張が低くなり、攻撃行動を低減できるが、フィッシュバック(Feshbach, S., 1955)は、実際に攻撃行動をとらなくとも、頭の中で空想するだけで攻撃動因を軽減できるとしている。これをカタルシス(catharsis)効果と呼ぶ。
モデリング
攻撃行動をとらないモデルへの接触は、カタルシスより有力な攻撃行動の抑制につながる。ミルグラム(Milgram, S., 1965)によれば2人が同盟して攻撃行動をとることを拒否しているのを観察した被験者は、攻撃行動を求める実験者の要請に従おうとはしなかった。バロンとケプナー(Baron, R. A., & Kepner, C. R., 1970)の実験結果もミルグラムの結果を支持している。
賞罰
ボボドール人形に攻撃行動をとった子どもをほめると、ほかの子どもへの攻撃行動がみられる(Walters, R. H., & Brown, M. A., 1963)が、逆に罰した場合は攻撃行動は抑制される(Deur, J. D., & Parke, R. D., 1970)。しかし罰の効果は両刃の剣で、罰というおどしがかえって攻撃行動を助長する(Walters, R. H., & Thomas, E. L., 1963)場合もあり、たとえ攻撃行動を押さえることができても一時的である(Estes, W. K., 1944)ことも示されている。一方、攻撃的な行動をとらないことをほめることでも攻撃行動は抑制できる(Brown, P., & Elliot, R., 1965)。
反攻撃的価値の内面化
攻撃行動をコントロールするためには、教育によって、暴力的で破壊的な行動はしてはいけないことだという価値観を内面化していくことも重要である。
共感性
攻撃によって受けている被害者の苦痛(victim pain)を、その人の立場になって感じるとることのできる共感性豊かな人は攻撃行動を抑制することができる(Feshbach, N. D., & Feshbach, S., 1969)。