レスポンデント条件づけ
ロシアの生理学者パブロフ(Pavlov,I.P.,1927)は、犬の唾液の分泌が学習によって統制されることを発見し、条件反射(conditioned reflex)の学説を展開した。この実験は、防音室内で犬を実験台に固定し、唾液腺開口部に管を接続して室外に導き、室外から実験を観察できるようにした。そして犬に肉を与えると同時にメトロノームの音をきかせ、これを30~40回ぐらい繰り返すと、メトロノームの音だけで、餌を与えなくとも犬は唾液を分泌し、その唾液量も餌を与えた時とほぼ等量であることを見出した。これは音という刺激と、それとは元来は無関係であった唾液分泌という反射の間に、新しい連合が成立したためと考えた。そこで食物に対して唾液を分泌する反射は生得的なものであるから無条件反射(unconditioned reflex)といい、唾液分泌を起こす刺激である肉を無条件刺激(unconditioned stimulus)と呼んだ。これに対し、元来唾液分泌とは何の関係も無いメトロノームの音に対して唾液を分泌する反射は、後天的に経験によって獲得されたものであるから、これを条件反射といい、唾液分泌を起こす新しい刺激であるメトロノームの音を条件刺激(conditioned stimulus)と呼んだ。
この条件づけにとって最も必要な条件は、条件刺激と無条件刺激とを対提示することであり、この手続きを強化(reinforcement)あるいはレスポンデント強化(respondent reinforcement)という。一般に強化を繰り返すほど条件反射量は増大し、条件刺激提示から条件反射が開始するまでの時間間隔、すなわち潜時(latent period)が短くなる。
条件刺激と無条件刺激の提示の時間的関係については、条件刺激を無条件刺激より前に与えるほうが条件づけを成立させやすい。最適の条件は、0.5秒前後条件刺激が先行する場合である。無条件刺激が逆に条件刺激より先行する場合を逆向条件づけというが、この場合は条件づけは極めて困難である。
パブロフは音刺激と唾液分泌を条件づけた後、音刺激と黒い四角の視刺激を対提示したところ、黒四角の刺激は餌とともに提示されたことがないにもかかわらず、この黒四角という中性刺激が唾液反応を引き起こすことができることを見出した。このようにもともと強化力をもたない中性刺激が強化刺激とともに繰り返し提示されると、強化力を獲得し、それによって強化をしていく手続きを二次強化(secondary reinforcement)という。この中性刺激が二次強化刺激となるためには、一時強化が存在することが必要であり、また、その一時強化刺激と接近して生起する刺激であることが必要である。
一度条件づけが成立しても、無条件刺激を与えないで、条件刺激だけを提示すると次第に反応が衰え、ついには消失する。これを消去(extinction)という。この消去は、合図と反応の関係づけが解消されるのではなく、合図があっても反応が起こらないようにする制止過程が発生することによる。